コーダ あいのうた

自分1人だけが聴覚者であるという家庭で、ろう者の家族を支えながら高校に通うルビー。
合唱クラスに入った彼女の歌唱の才能に気づいた教師はルビーに音大への進学を薦めるが、音楽が理解できない両親は反対する。
役と同じ聴覚障害を持つ俳優がルビーの家族を演じ、2022年度アカデミー賞で作品賞、助演男優賞などを受賞した。

この作品は元々はAppleTVでの配信作だったのが日本では劇場公開されたという、配信スルーされる事が多い日本では珍しいパターンでした。
「これは日本ではヒットする!!」と睨んだ配給担当の方は優秀だな〜
わたしは第5波か6波の時期だったので(もう何波だったのかも思い出せない)映画館では観れずじまいで、先日アマプラでようやく観れました。
もうこれは…この映画が嫌いって人はほぼいないんじゃないでしょうか?
家族を支える少女の自立、そして歌…という感動材料が揃ったお行儀のいい映画のふりして両親、親友の下ネタがヒドいという意外にコテコテの味付けもあり、たくさん笑わせてもらいました。

お父さんのね、下ネタがヒドかったですね笑。
アニメの『じゃりん子チエ』で、主人公チエちゃんのお父さんのテツが昼間から仕事もしないで近所の人と「次にこの道を通る人は男か女か?」って賭けをしてる時にチエちゃんが通り、男に賭けていたテツが「実はチエは男なんや。チエ、男の証拠見せたらんかい!!」って言う、娘に言う事がテツ並の下ネタ具合でした。
けどこの、ギリ笑って許せるバランスがほんとにすごい!
ひとえに演じたトロイ・コッツァーさんの持ち味の勝利ですね。
お母さんもね、やたら性欲有り余ってるんですよね。
職場にテレビ撮影が来る!ってんで胸元開いた服着て行ったり「もうお母さんやめてよーー!」ってウザさもリアル。
こういうのを笑える感じで描いていて、一瞬ろう者の両親であるって事を忘れかける。
聞こえないから食器を置いたり生活の音が派手で、ルビーがイヤホンして勉強してたらお母さんが「外しなさい!」って(手話で)言うんだけど「うるさくて集中できない!」って怒る…っていうこの日常の会話が、聞こえる側からするとなるほどなあ〜〜って感じでした。
障害を含め、娘ならではの「両親のこういう所が嫌!」っていうのをちゃんと描いてる。

バランスといえばこの映画はヤングケアラーの問題もはらんでいるので本当に難しかったと思います。
いくら仲のいい家族だからって授業中居眠りしてしまうぐらい家業を手伝ったりいろいろ犠牲にしてるのは美談にしていい事ではないと思うし。
あとお兄ちゃんがいてくれてほんとによかった!
両親との間にお兄ちゃんがいてくれなかったらルビーは家に残っただろうしいろいろキツかっただろうと思う。

この映画は2014年のフランス映画『エール!』のリメイクになるんですが、1996年のドイツ映画『ビヨンド・サイレンス』を思い出した方もいたんじゃないでしょうか?
『ビヨンド・サイレンス』では主人公がクラリネット演奏者としてろう者の両親からの自立を希望するんですが、わたしは正直クラリネットの良し悪しがよくわからず、オーディションのシーンでも「主人公以外もみんな上手い」と思ってしまったんですが、『コーダ〜』は歌なのが映画に入りやすくて効果的ですね。
歌はやっぱり歌詞の意味なんかも相まってグッときてしまうし、さらにこの映画では手話という非常に表情豊かな言語も加わって感じたことのないような多幸感がありました。

この映画と前年の『エターナルズ』などの影響で、障害を持っていたり何らかのマイノリティーである役を演じるのは同じマイノリティーの俳優であるべし、という意識が完全に根付いた感があるのは重要な事だと思います。
現実の世界は「どこまで底が抜けるんだよ…」ってぐらい地獄だけど、創作の世界は明らかに良い方向に向かっている、というのを感じられると何とかやっていけると思えるのです。

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