浮き雲
1996年のアキ・カウリスマキ監督作。
彼の作品のなかでは「敗者三部作」と呼ばれるグループに属する作品になります。
「好きな監督5人」の中に入れたい監督のひとり、アキ・カウリスマキ。
フィンランドを代表する監督です。
フィンランドといえばムーミン。
そしてマリメッコなどのテキスタイルデザインが真っ先に浮かび、首都ヘルシンキが舞台の日本映画『かもめ食堂』で日本人にも馴染みのある国です。
そんな明るくかわいいイメージのあるフィンランドですが、ムーミンがそうであるように得体の知れない暗くて不可思議な部分もあり、そこに惹かれるのかも知れない。
カウリスマキの映画もまた、到底「明るい」とは言えない作品ばかりで登場人物たちがとにかく無表情なのが特徴的です。
わたしが初めて観たのは『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』。
高校の美術の先生が一番好きな映画だと教えてくれたのでレンタルして観ました。
なんなんだこれは…とすぐにハマり、観れらる作品はすべて観ました。
どの作品も人々は貧しく、表情に笑いはなく、起こるシチュエーションも笑えないものばかりなんだけどちょっと笑ってしまう…常にそんな感じです。
けどどれも人間に対するまなざしがすごく温かい。
犬もよく出てきて、もれなくかわいい。
この『浮き雲』で夫婦が子供みたいにかわいがってる犬もほんとうにかわいいし、『過去のない男』ではハンニバル(ハンニバル・レクターからきている)と名付けられてゴロツキに見張り番として飼われているのにめちゃくちゃ温厚でかわいい、という犬も出てくる。
『浮き雲』では夫婦が揃って職を失ってしまう話。
日本はこの映画が公開された90年代の終わり頃から少しずつ貧しくなってきて今に至っているのでとても身につまされる。
奥さんの方は有名レストランで給仕長をしていたのが、失業して軽食堂で働くことになります。
そこでは注文を取るのも食事の準備をするのも配膳をするのもひとり…というワンオペなんですが、奥さんは誰もいないキッチンに向かって注文を言い、キッチンに入って自分で作った食事をカウンターにいったん置き、ホールに回って食事を持ってから配膳する…という手間を取る。
全然しなくていい手間なので可笑しいんですが奥さんの静かな誇りを感じる、素晴らしいシーンです。
貧しいながらも温かく、努力して這い上がる夫婦…とあらすじだけ聞くといかにも日本人が好みそうな押し付けがましい感動もののように思いますがそういうのとは違う。
何が違うのかと言うと、背筋がしゃんとしていて品があるところでしょうか。
泣きわめいたり絶対しないんです。
そういうところが大好きです。