ラストナイト・イン・ソーホー

ファッションデザイナーを夢見てロンドン・ソーホーに出てきたエロイーズ。借りたアパートで夜な夜な自分が60年代のソーホーにいる夢を見るようになり、そこで歌手を目指すサンディと出会う。
『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライト監督最新作。

エドガー・ライトは「男向け」を脱却したのか?

「サブカル好きの男たちは『ジョーズ』を俺たちの映画だって言ってたけど女だって観てたんだ」とは、最近Netflixで配信開始された『映画という文化 -レンズ越しの景色-』の中で『ジョーズ』公開時に30回は映画館で観たという女性が語った言葉なんですが、ここ何年か配給会社が自社配給の映画を「男性向け」と縛りを付けて女性客を無視するような発言の末炎上…というような事例がいくつかありました。
1975年の『ジョーズ』の頃からこういう言葉に憤慨していた先人たちがいたんだなと胸が熱くなります。
エドガー・ライト監督の映画は大抵いつも男たちが昼間からパブにたむろして映画やゲームの話をうだうだする…という、勘違いした輩がクソデカボイスで「俺たち男の映画だ!」って言いそうな作風なんですが、『ショーン・オブ・ザ・デッド』の前に製作したTVシリーズ『SPACED 〜俺たちルームシェアリング〜』では底抜けにダメなボンクラ男女コンビが主人公だったので、監督自身には「カルチャー好きに男も女もない」というスタンスの人だと思ってます。

「憧れ」という巧妙な罠

そんなエドガー・ライト最新作は女性が主人公で、しかもW主人公!
さらに60年代のファッション、音楽、スウィンギング・ロンドン…という胸踊るジャンルで映画好きならずともわくわくしてしまうんですが、この時点でもうこの映画の罠にはまってるんだな…という事が後々わかってくる構成がとてもうまいです。
要するに、わたしたちはついつい自分の体験していない昔の時代を良きものとして憧れを抱きがちだけど本当にそんな素敵な事しかなかった時代だったのか?って事を描いてる。
この映画ではそれはズバリ「女性の扱われ方」。
「歌手になりたい」とだけ願っていたサンディに対して「こういうサービスをしないと歌えないよ?」と彼女を性的嗜好物としか扱わず、当然とばかりにそれを要求してくる男たちのグロテスクさが、この映画のメインジャンルである「ホラー」とすごく相性がいい。
直接的な描写はなくても映画全体にあるのは「レイプへの恐怖」なので、トラウマがある人には結構きつい演出があります。

やっぱシスターフッド最高!

それでもこの映画にははっきりと希望があって、それはやっぱり女性が女性を助ける「シスターフッド」なんですね。
エロイーズを支えてくれるボーイフレンドはいるけど、サンディを気にかけるのはエロイーズしかいない。
夢の中で魅力的に夜の街を駆けるサンディに憧れのまなざしを浮かべ、彼女の歌手デビューをまさにファン1号として心待ちにし、性的対象とて飾り立てられる彼女の姿に戸惑い心配し、ガラスの向こうから「触るな!触るな!」と男たちに叫び散らすエロイーズは思い出しただけで泣きそうになる。
彼女が見た夢の真相を経て、サンディはエロイーズにとって恐怖の対象となってしまったんだろうかと危惧してましたが、ラストシーンで目が合ったあの2人の表情が笑顔だったことが本当によかった。

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