FLEE フリー
アフガニスタン出身で現在はデンマークで暮らす青年アミンは、親友の映画監督によるインタビューを通じて今まで語った事のなかった過去を話し始める。
インタビューから成るドキュメンタリーでありながら顔と本名を晒すと危険が及ぶためアニメーションにしてフィルム化したという異色作であり真実の物語。
「フリー アニメ 映画」で検索すると京都アニメーションの競泳アニメ『Free!』がヒットするのですがこちらは『FLEE』で、危険な場所や状況から安全を求めて逃げる、というような意味です。
そして主人公アミンとその家族がFleeするのは他でもない、生まれ育った故郷だという現実が胸をえぐります。
観る前から重い内容である事は想像してましたが、実際観るとその重さの内容が想像と少し違っていたというか、わたしなんかが全く想像だにできなかった種類のもので、なんかもういろいろと自身の想像力の至らなさに猛省してしまいました。
例えば実際の戦闘に巻き込まれて怪我をしたとか、身内に死者が出てしまったとか、それらももちろん比べようがないぐらい辛い事ですがそういう事ばかりじゃないというか。
全く人間扱いされていないような酷い移動手段で国から国を転々とする肉体的な辛さももちろんだけど、密入国者として息を潜めて暮らさないといけない精神的な辛さや、出国できるにしても自分の全てを偽って「家族は全員死んだ」と言わなければならず、その度に涙が止まらなくなったり。
やはりわたしは心のどこかで「生きてさえいれば大丈夫」「暮らせる場所があるだけでもよかった」なんて思っていたんだろうけど、それだけで大丈夫な訳ないんですよね。
それで大丈夫だと思ってたって事はその人たちを感情や意志のある人間扱いしてなかったって事なので、これはもうはっきりとした差別意識なんだと思いました。
そんな重い内容ですが冒頭で驚いたのは、お姉さんのワンピースを着た幼少期のアミンがa-haの「Take On Me」をウォークマンで聴きながら踊っているという、思わず心が浮き立ってしまうようなシーン。
しかも映像が「Take On Me」のpvふうだという!
アミン少年はこの他にもAce of BaseやRoxetteなど90年代にわたしもめっちゃ聴いてた!というポップスを愛聴しているのですが、自分がそれらを聴いていた甘っちょろい高校時代を思い返すとそれほど歳の離れていない少年が同じ頃こんな苦境を生きていたんだ…と思うと本当にもう辛い。
さらにアミン君は幼い頃から同性愛者を自認していたのでそれもまたアフガニスタンでは生きていけないという二重苦なんですね。
だから家族との絆がとても深いにも関わらず、家族にも隠し事をしなければならないっていう。
けどいよいよ家族に告白しなければ…というシーンで、もうこれは地獄になるのでは…と観ていて吐きそうなぐらい緊張したんですが、このカミングアウトの結末がこの映画全編に於いても最高に心浮き立つ魔法の様なシーンで締めくくられていたので泣いてしまいました。
お兄さんの対応がほんと神で…ろくでもない対応するんじゃないかと疑ってしまってほんとごめんお兄ちゃ〜〜〜ん!!って思いました。
(まあ明らかにミスリードする演出だったのでみんな同じ事思ったと思う)
そんなささやかな喜びもある、だけどやっぱり1人の人間が背負うにはあまりに酷すぎる人生を「良い話」として消費だけしないで考えたい。
極端に低い難民の受け入れ率、ウクライナ難民だけの優遇とも取れる特例(もちろん受け入れるべきだけど他の国からも!という問題)、虐待施設のような入管管理局とウィシュマ・サンダマリさん、他の収容されている人、過去に亡くなってしまった人のことなど…全く他の遠い国の事ではなく自分が住む国に地続きなのだから。
あと同性婚の事も!(こないだの大阪地裁の判決は酷すぎた…)
とりあえず近々に自分にできる事は参院選投票ですねという事で、すぐには変わらなくても意識を持って知見を深めたいなと、こんなわたしですが思います。