ロスト・ドーター
海辺の町で休暇を過ごすレダは幼い娘を連れた若い母親ニーナと親しくなるが、かつての自身の娘たちとの記憶が蘇り情緒不安定になっていく。
マギー・ギレンホールの監督デビュー作。
近年俳優出身の監督の活躍が目覚ましく、特に女性俳優による傑作が次々に生まれていて楽しみなんですが、独特の存在感を持ちながらもしばらく映画で見かけていなかったマギー・ギレンホールがここに来て監督デビューです。
俳優出身監督のいい所はやっぱり演者に理解があるぶん、より良い演技を引き出せるのかな?という所でしょうか。
特に監督も主演も女性の場合は意見の交換がし易いだろうし、労働環境の面なんかでも理解が得られ易くていろいろ助かりそう、ってイメージ。
女性監督が撮影現場に託児所を設ける、なんてケースも増えてるみたいですね。
主演のオリビア・コールマンと監督とでどんなディスカッションがされたのか?なども気になるところです。
さて内容ですが、正月早々観るにはかなりヘビィでした!
けど今年もNetflixオリジナルは容赦なく本気だなと、信頼度がまた上がったのも事実。
かつて育児を経験した中年女性と、今まさに育児真っ最中の若い母親、そして出番は少ないながらこれから出産を控える女性…など育児をめぐる様々な立場の女性たちを主軸に主人公の過去と現在が描かれます。
こう書くと海辺の町で交わされる女性たちのハートウォーミングな交流…みたいなのを想像するかもですが全然違うんですよね。
もうとにかく最初から不穏。
何かが起こるに違いない…という空気を常に出しながらそれがフェイントだったり、はたまた「なんでそんな事やっちゃったの??」って小さい犯罪が小さい犯罪では終わらず、どんどん大ごとになっていくあの嫌な感じ…たまらない。
オリビア・コールマン演じるレダは一見、もう色恋なんかとは無縁の落ち着いた女性のようなんだけど周りの男性に変なちょっかいをちょいちょい入れて、そのせいもあって変にモテるんですよね。
で、なんなんだこの人は?って思ったら回想シーンの若かりし頃はすごく情熱的というか、恋愛欲求というより言ってしまえば性欲が先ずありきの恋に突っ走ってしまうタイプ…というか、それすらも煩わしいと思ってたかもしれないぐらいに自由を求めてる女性。
さらに文学研究の道に突き進んでた人なのでそれに没頭したいという欲求も強い。
で、やっぱりというかそういう人が早めの結婚と出産をするとどうなるのか…?という事が回想で悲痛に描かれる。
これはもう、観る人の立場によって感想が全然違ってくる映画だと思います。
単に出産の経験の有無だけでも区切れない複雑な感情が「ああもうこんな感情を映画で見たくない」ってぐらい描かれていて、そういう描写をよくぞここまで映画にできたなと驚きです。
特に、ある質問に対してレダが放った「Amazing(最高だった)」という回答にびっくりしない人はほぼいないんじゃないだろうか。
例えそれに「わかる!」と思った人でも、これを映画のセリフとして言葉にしてもいいの?と戸惑うこと必至でしょう。
そう考えると、映画などの創作表現って差別を除いてはもう描けないものや言ってはならないことなんて今やないんじゃないか?ってぐらい自由になったと思ってたけど、こと「母性」に関しては未だになんて不自由なんだろう、と気付かされ改めてびっくりします。
とにかく終始緊張感の半端ない作品でした!
殺人が起きる訳でもないのにサスペンスフルだった。