パワー・オブ・ザ・ドッグ
1920年代のモンタナ州で牧場を営むフィルとジョージの兄弟。
ジョージは未亡人ローズと結婚しその連れ子ピーターと共に牧場で住む事になるが、冷酷なフィルによってローズの精神は蝕まれていく。
『ピアノ・レッスン』のジェーン・カンピオン監督作。
先の記事で2021年ベスト10としてイラストは投稿済みですが、本当に素晴らしい映画だったので感想を。
先日ノミネートが発表されたゴールデン・グローブ賞ではケネス・ブラナーの『ベルファスト』と並び、作品賞を始めとする最多の7部門ノミネートとなりました。
公開当初から賞レース本命と言われていたので確実に次のアカデミー賞でも主要部門へのノミネートは間違いないでしょう!
2021年ベネディクトの真打!
ベネディクト・カンバーバッチが圧倒的に素晴らしかったです!
今年は『クーリエ 最高機密の運び屋』『モーリタニアン 黒塗りの記録』と実話ベースの重厚な作品への出演が続いていたし、特に『クーリエ〜』では冷戦時代にスパイ容疑で投獄される役に体張りまくっていたのでこれは賞取る気満々だな〜〜と思ったものですが、今回の演技は更に傑出していてこれが本命だな!と思いました。
フィルという主人公はまさに昨今ジェンダー・バイアスについての議論で語られる「有害な男性性」にがんじがらめになっている西部の男。
1920年代の「失われた西部」
とはいえ、実はもう1920年代に入ってるのでいわゆる「西部劇」の西部開拓時代ははるか昔…という設定なんですね。
けど風景はまさに西部劇そのもの、という不思議な舞台。
街に行けばもう車も走ってるし、ローズの息子が入った靴屋にはなんとスニーカーが売られていて彼はそれをチョイスします。
西部劇にはこういう、時代の移り変わりを画で見せるものが多い(馬の代わりとなる自転車に乗る『明日に向って撃て!』など)ので、こういう小道具の使い方にはハッとさせられます。
映画を観る前はこのフィルというキャラクターはローズに実際的な暴力を振るうようなキャラクターなのかと思ってましたが少し違っていて、暴力はないけどもっと陰湿な感じの精神攻撃をネチネチと続ける、ヒッチコックの『レベッカ』のダンバース夫人みたいなキャラクターでした。
それがだんだんと「あ、この人はもしかして…」と真の姿が見えてくる。
それはこの時代ではあまりに生きづらいもので、実はローズを執拗に攻撃するのは弱者の弱者ゆえのゆがんだ攻撃なんだ…というのが何とも不毛で不憫ですらある。
それでもローズにとってはたまったものではないので同情しかねるんだけど。
実はミステリーだった!
この映画がおもしろいのは途中に「ジャンル変え」が起きるところ。
新妻をいびるダンバース夫人のポジションがフィルだと思わせて、最終的には意外な人物によって追い詰められる。
「あれ?ミステリーじゃんこれ!」って思った瞬間最高でした。
けどこの顛末は最初にちゃんと語られてるんですよね。
あいつこそが地獄の有言実行マンだった!という逆転カタルシス。
同時にフィルという男が本当に哀れで、
あんた…あの時こうしてればよかったのに…ていうかあんたもこうしたかったんでしょう??
って思い返すことばかりで、観終わってからもずっとフィルのこと考えてたので「こうだったらよかったね」って絵も出来心で描きました。
ほんとはお花に感動したんだよね!!
このシーン、わたしは一瞬「練習を手伝ってくれてるのかな?」ってポジティブに受け止めてました。
あんた…イキって「ウサ公」とか言ってたけどさ…そういうところだよ!!