最後の決闘裁判

1386年のフランスで起きた強姦事件を加害者、被害者の夫、被害者の女性…の三者からの視点でそれぞれ描く。

性暴力を扱った作品のため、直接的ではないにしろわたしの感想もその内容に触れます。
フラッシュバック等何らかの心理的不安がある方は読まないことをおすすめします。

リドリー・スコット監督で騎士同士の決闘ものというと『デュエリスト/決闘者』という1977年の作品があり、わたしも大好きです。
この映画では2人の兵士が人生で何度も出会ってその度決闘をするので、今回の『最後の決闘裁判』でもマット・デイモンとアダム・ドライバーが何度も決闘するんだと思ってました。
観てみるとなるほど、言われていたとおり『羅生門』(映画版)でした。

最初はマット・デイモン、アダム・ドライバー、ベン・アフレックというキャストの揃え方がいびつというか見ていてどうにも落ち着かないなと思っていたんですが、観終わると妙に納得したし「この人たち、よくぞこの役を引き受けたな!!」と拍手したくなりました。

劇中の3人ともクソでした!!!

マット・デイモン演じる夫の回想は「おめー、めちゃくちゃ自分のこと美化しとるやんけ…」ってドン引くし、アダム・ドライバーにおいてはもう強姦魔役なのでこんなん絶対誰も演じたがらないと思うんだけど見事に最低どぐされ野郎を演じきってました。
劇中でも「あれは愛だったんだ!」って言うし、映画の時代から635年経った今でも性暴力の重さを分かっていない、分かろうとしない人は男女問わず(劇中でも女性からのバッシングもあるのが悲しい)いますが、ほんとこんな暴力、怨恨での殺人の方がまだ人間らしいよって思う。
これは最低の行為なんだっていう事をきっちり示す演技でした。

同時にこのシーンはリドリー・スコット監督の編集センスがやっぱり最高で、アダム・ドライバーと被害者のジョディ・カマー目線とで2度描かれた際の(マット・デイモンは後から聞かされるだけなので彼目線では描かれない)微妙な違いが本当にすごい。
視覚的には極力観客の負担を軽くしながらも被害者の辛苦は軽く見せない演出がすばらしいので、こういうシーンは本当に辛いんですが絶対必要なシーンでした。

1階から階段を登って寝室に逃げ込もうとするジョディを追って、テーブルを挟んでの攻防の末、担ぎ上げてベッドに押し倒す…という一連の動作。
これらの描写ってちょっと前まで「好き同士の2人がふざけ合ってから事に及ぶ」という意味合いで割とよく見た描写だと思います。
アダム目線だとジョディの顔がベッドに行くまであまり見えないのも「こいつ…彼女が嫌がってないと思ってやがるな」っていうのが見えて更にクソ。

ちょっと前まではよくあるシーンだったものが今見ると「これって男性が無理やりしようとしてない?」と感じたり、更に「女性は嫌がってるのにされるシチュエーションが好きなんだ」みたいな間違った意識を植え付けるシーンになってしまってない?とか見えてくる事があります。
今年84歳になるリドリー・スコットという大御所が映画界全体に、もちろん自戒も込めてそういう見直しをするのはすごいし勇気があると思います。
ちなみに最近の映画だと「この2人(特に女性)は性交渉に完全に合意していますよ」っていうのを示す演出が心がけられていますね(女性が上になって壁に押し付けるシーンを挟むなど)。

そして最後にやっぱりこの映画で最高なのはジョディ・カマーですね!
彼女の顔を捉えて終わるラストシーンは『殺人の追憶』のソン・ガンホを思い出しました。
どんなに幸せが訪れても決して忘れることはない。

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