私ときどきレッサーパンダ

2002年、13歳のメイはカナダ・トロントで暮らす中国系カナダ人の女の子。
学校では親友3人とアイドルの話で盛り上がったり元気いっぱいだが、家に帰ると母親の前で良い子を演じてしまう自分に悩んでいた。
思春期ならではのストレスで巨大なレッサーパンダに変身してしまう女の子をポップなタッチと色彩で描いたピクサー最新作。

いやもう最高でした!!
ピクサーで一番好きかもしれない!!!
おもちゃの世界のシビアな世代交代劇を描いた『トイ・ストーリー』に始まり、海の世界で障害を持つ子のシングルファーザー物語『ファインディング・ニモ』など、常に子供がわくわくする世界観の中に大人に刺さるスパイスをピリッと効かせた作品を生み出してきたピクサー・スタジオなので、常に期待度は高かったし、常に応えてくれた。
それでも、まさかここまで期待を飛び越えた物語を生み出してくれるとは!と驚きでいっぱいです。

この10年、特にこの2、3年で一気にアップグレードが始まった感のするジェンダーバイアス、フェミニズム、ダイバーシティ、人種、家父長制に代表される家族のありかたなど…の意識の変化は特に日本ではまだまだ成長過程にあると思いますが、その成長の先から楽しげに「おーい!」と手を振って呼びかけて道を示してくれてるような、感覚的にそんな作品な気がします。

先述したような意識の変化はもちろんアメリカではずっと進んでるわけですが、映画のなかの女性の描き方の多様性、みたいなものはちょっと時差があるというか少し遅れてる気がしてました。
いわゆる「スクールカースト」というやつで低い位置にいるイケてない”Geek、Nerd(おたく)”系女子が主人公になった『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』はすごく画期的だったけど2019年だし、振り返ると結構最近までそういう女子の存在って認められてはいるけどあくまでも隅っこで、「居てもいいいけど主人公にはなるなよ」って無言の圧があったような気がします。
それはなんか、日本でもここ何年か度々炎上した「女はサブカル分からないよね?だから語ったり俺たちの領土に入って来るな」みたいな無意識の発言と根っこが繋がってるんじゃないかと思う。

この映画は後半、大好きなアイドルグループのコンサートにどうしても行きたい!というメイと親友たちの奮闘が描かれますがこの辺りがKISSのライブに行きたい男子4人があれやこれやで策を練る1999年の『デトロイト・ロック・シティ』みたいで最高でした。
あの映画のあと『スーパーバッド 童貞ウォーズ』に代表されるようなイケてない組の奮闘ものが人気になりますが、やっぱり長らくそれは男子だけのものだったんですよね。
メイたちはチケット代のため、レッサーパンダの変身能力を利用して学校でお金を稼ぐわけですが、わたしはこのシーンを観ながら「最高!最高だけど…この後怒られてこの時間は反省すべき悪いこと、って事になるのかなあ?」と心配というか諦めてたんですがそれがなかった、むしろその録画動画を見たお父さんに「すごく好きだよ」って言ってもらえたのがこの作品の懐の深さを感じてもう驚愕しました。

よかったところを挙げると本当にもうキリがないんですが、クライマックスの祖母&叔母さんたちの変身シーンがかっこよくてほんと良かった!
おばさんがかっこいいとか…最高じゃない??
現在、実写映画ではこれまで「誰々のお母さん」役しか回ってこなかった50代の女性俳優たちがクールな役で活躍するアクション映画やドラマが次々作られていますが、それがアニメにも出てきたのが素晴らしい。
メイの母・ミンの、主人公にとって対峙すべき対象だけど決して嫌な憎まれ役ではないというさじ加減もさすがでした。
中高年はなかなか自分の過ちを改めたりできないので、わたしは正直『ミラベルと魔法だらけの家』の最後でおばあさんが改めるのは「いやもう、この歳では人間は変わらんし無理やな」って思ったんですよね。
けどミンは過去の自分と母親との関係を思い出して、メイへの態度を改めるっていう流れがものすごく自然だと思いました。
そしてメイ以外の女性たちが再び自身のレッサーパンダを封印するのも移民家族の世代の違いという感じでリアルでした。

で、ここまで良い事しか書いてないのに最後にあれなんですが、これだけ良い作品だったからこそ劇場公開を取りやめて配信オンリーにした事、フロリダ州の「Don’t Say Gay」法案への対応、明らかになったこれまでのピクサーへの圧…など、ディズニーに対する不満と不信感が出てしまったのは残念です。
でもディズニー+でしか観られないので、そんな事も踏まえつつ本編と、メイキング『レッサーパンダを抱きしめて』をおすすめします!

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