シャドウ・イン・クラウド
第二次世界大戦のさなか、モード大尉はある「機密」を運ぶためサモア行き戦闘機への搭乗を願い出る。
男性乗員からの卑猥な言葉に耐えながら任務を遂行しようとする彼女の前に日本軍の零戦からの爆撃と、予想外の敵が襲いかかる。
クロエ・グレース・モレッツ主演作。
今思えばめちゃくちゃネタバレじゃんって予告編でのクロエの戦闘スキルを見て「これば必見なのでは??」と思い、自分の誕生日に観に行きました。
特筆すべき事の1つは上映時間83分という驚異の短さ!
『THE BATMAN』の半分もない!!
映画のなかで主人公モードに次々起こる展開がほぼほぼリアルタイムで体験できる作りになっていて、そこらへんの計算あっての83分なんじゃないかと思ってます。
高度2500メートルを飛ぶ戦闘機という密閉空間で零戦とグレムリン(??)からの同時襲撃を受ける絶体絶命の主人公。
しかも彼女が運ぶものの正体は、絶対庇護を要する「もの」で…という状況が『エイリアン』1作目&2作目を併せたような感じ。
ストーリーそのものはかなり馬鹿げてるんだけど、この監督はこれまでもずっとこういうテイストの作風だったらしいのでウケ狙いとかではなく、本当にこれが描きたい事なんですよね。
あとエンドロールを見る限り、大戦下の女性兵士へのリスペクトも表したかったんだろうと。
なので、ちょっとバカっぽいパニックアクションとして楽しんでも全然いいんだけど、やっぱり一番描きたかった事は「一人の女性が一生のうちに受ける性的差別を矢継ぎ早に体験する83分」なんじゃないかと思います。
冒頭、戦闘機に乗り込んだ後のモードは男性乗員たちのセクハラ発言の餌食となりますが、これは言うまでもなくほとんどの女性にとっての女性差別一丁目。
続いて彼女が名乗った「モード・ギャレット大尉」という名前。
怪しんだ乗員が調べるとそんな名前の兵士はいない、という事が分かるんですが実は彼女は元夫からの暴力から逃げているが離婚が成立できていないので軍での記録が夫の姓のままになっている…という複雑な身の上。
グレムリン殴るような映画にこんなややこしい設定要る?っていうのが率直な感想になるんですが、これは「望まない状況で男性に名前を奪われている」っていう理不尽が映画が始まる前から彼女に課せられているのを描きたかったんだと思います。
更に乗員の1人であるクエイドがモードの現在の恋人であるという事がわかると嫌がらせをしていた乗員たちの態度がちょっと変わるのがポイント。
「クエイドの彼女だって分かってたらあんな事言わなかったよ」
…みたいな雰囲気になるんだけどこれ、女1人だったらその個人をとことん虐めるのに仲間の男の恋人だと分かるとその仲間に対して(彼女にではなく)
「いや〜お前の女に失礼な事してごめんな?」
…って態度に変わってるって事なので相変わらずクソなんですよね。
ここからはネタバレなんですが、更にモードが肌身離さず大事に守っていた「機密」の中身が実は彼女とクエイドの赤ちゃんだと判明すると、更に乗員たちの態度がガラッと変わるんです。
突然みんな良い奴になんの!
零戦とグレムリンの攻撃が増して「赤ん坊を守れ、馬鹿者」みたいなセリフ吐いて死ぬ奴とか「フッ、俺すげー良いセリフ言ったぜ」みたいに悦に入ってんだけどはっきり言ってクソ。
要するに乗員たちから見たモードは「1人の女性」から「仲間の女」、最終的に「母親」へと変化を遂げ、どんどん「敬うべき相手」へと昇格していくんですが、「1人の女性」の状態でも敬うべきなんですよ!同じ兵士なんだしそもそも1人の人間なんだから。
しかも説明不足はあったもののモード自身は最初から最後までなにも変わっていないんですよね。
なんか途中から母パワー炸裂して急に強くなったように映画的には見えるけどそれも最初から彼女に備わってた能力な訳で。
なのでこの映画、もう他の方も言ってますが、男性しかいない作品だと性的ジョークを言い合うのも和気あいあい的な雰囲気で流されるし、最初はバカにしたり虐めてた仲間とも分かり合えてウオーッって感じで強くなって映画的テンションもどんどん爆上がってホモソーシャル最高〜フォーーー!!…みたいな構成のやつみんな好きだしわたしも好きだし良いものとされてるけど、そこに女性が入るとこんなにクソソーシャルに見えてしまうんだな…っていうのが分かる、ものすごい意欲的な作品だと思いました!