別離

アカデミー賞外国語映画賞をはじめ、2011年度の映画賞を数多く受賞したイラン映画。

まだDVDをレンタルしていた頃に何度か借りて観た映画です。
すごくおもしろくて見応えがあって好きな作品なんですが、同時に掴みどころがないというか何と説明していいか迷う感じで、記憶の中で2本ぐらいの映画に分裂していて日本語タイトルも短いからか一度観ただけでは頭に定着しなかった…不思議な映画でした。
いろいろ複雑なんですが、でもストーリーとしては2つの家族内の話なので別に国家を揺るがす陰謀が…とか難しいテーマではないはずなのにやたら脳のカロリーを消費する。
とにかく終始緊張感が途切れないのでかなり集中を要します。

冒頭、一組の夫婦が離婚を申し立てるシーンから始まります。
奥さんはニューヨークとか闊歩していても違和感ないような近代的な外見の女性。
すれ違った高齢女性が彼女を見るなり頭から足まで見回すシーンがあるぐらいなので、イランの首都であるテヘランでも浮いてる部類に入るみたい。
夫の方も家ではTシャツとか着てるので、妻ほどではないにしろ近代的な人。
奥さんは娘のことを考えても女性が生きづらいイランで生きることを望まず、夫は介護を要する父親を置いていけないという理由で移住を望まない。
2人の言い分を聞く行政の人はやっぱり夫を尊重して、妻の主張には理解を示さない。
男性が尊重される社会だし、夫の言い分の方が親孝行で尊く聞こえるので仕方ないのかな。
(現在は法律が変わったそうですが当時は離婚は行政に認められないと成立できなかったそうです)

離婚は宙ぶらりんのまま奥さんは実家に帰ってしまうんですが、間に挟まれた娘がかわいそうなんですよね。
娘は父親と暮らしていて仲も良いんだけど、ちょいちょいこのお父さんが少し権威的というか自分以外の人間に対して雑なところがある。
銀行員だからかお金にすごく細かいところがあって、ガソリンスタンドで娘に給油させておいて、娘が店の人にチップを渡したら「セルフなんだから渡す必要ない、返してもらってこい」って言って娘を行かせるところとか…なんか嫌なんですよね。
仕事があるので父親の介護を人に頼むのはいいとしても、その雇った人に対してもなんか雑。

そして映画はこの、介護のために雇った女性を軸に大きく転換していきます。

ここから映画のジャンルがミステリーや法廷劇みたいになっていくのが本当に独特でおもしろいんですよね。
ある事故が起き、ただでさえ離婚問題でしっちゃかめっちゃかだったこの一家がますます混乱していくという。
けどどこか、起こるべくして起きたというか、いつかこんな事が起こるんじゃないかと思っていた事が起きた…みたいな感じがするのが不思議なんです。
それはやっぱりこの社会の男性性が引き起こす女性の受難、と言っていいんだと思う。
それが特別暴力的だったり非道な男性が引き起こす訳ではなく、本来善良な、普通の市民の身に起きるっていうのが何とも言えない。

あとやっぱり宗教と信仰心。
日本に住んでるとなかなか分からないですが信仰ってこういう事なんだなと思わされるところがあって、けどそれは特別ではなくて大事な事だなと思える描写でした。


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