カモン カモン

アメリカ国内を回り、子供達にインタビューするラジオジャーナリストのジョニーは9歳の甥・ジェシーを数日預かる事に。
マイク・ミルズ監督が温かみのあるモノクロ映像で叔父と甥の交流を描く。

日本人にも馴染み深い「カモン カモン」って言葉には「こっちにおいで」という意味の他に「頑張れ!」とか「大丈夫だよ」という意味合いでも使われるみたいです。
大人が子供に「こっち(今自分がいる場所)においで」と言ったところで子供はさっさと大人を通り越してしまうし、それは実の親からすると少し寂しい気持ちもあるんだろうけどそれが望ましい、楽しみなところでもあるんだろうなと思います。
わたしはジョニーと同じく家族と子供を持たない選択をした側ですが、そういう人間にとっても(実際の子育てをしてる方からするとすごく図々しくて恐縮だけど)親目線になれるというか、全ての子供がどんどん大人を通り越して先へ行ってほしい、と思わせてくれる一作でした。
改めてマイク・ミルズ監督の目線の温かさよ!

モノクロの画面も一歩間違えるとスタイリッシュ過ぎて嫌味になりかねないけどほんとに温かなんですよね。
素人だけどあれは光量とか明度彩度の調節とかすんごい手間が掛かっているのでは?と思います。
ネットを見ると撮影風景の写真なんかは当然カラーでアップされてるんですが、映画観た後だとすんごい違和感があるぐらいモノクロがはまってた。
あと現代の話なんだけど懐かしさみたいなのも感じて、それもモノクロ効果かなーと思いました。
最後の方のパレードのシーンなんかが特に『フェリーニのアマルコルド』を思い出させるようなすごく昔の時代の思い出のようにも見えて、そう思うと映画全編が夢みたいな感じで何とも不思議な感覚。

不思議といえばこの映画は大人にとってはもちろん叔父目線で観れるし、けど9歳の甥目線にもなれるんですよね。
観終わった後、この映画が自分の子供時代のしあわせな思い出のような、もしくは大人になってからの素晴らしい数日間のように思えて、自分の記憶として染み込んでくるような感覚でした。

映画が進むにつれ、大人だからつい頭をよぎったのは「この甥っ子はこの数日間の事なんかすぐ忘れてしまうんだろうな」って事で、大人と子供との時間の流れ方の違いを思うと切なくなるんだけど、映画終盤で「自分といた時間を忘れない?」って先に口にするのが甥のほう、っていうのがグッときます。
思えば映画というのは時間を描く芸術なので、映画の中で直接描かれていない過去や未来の時間をも感じさせてくれる。
わたしが最初にそれを「切ない」と感じたのはたぶん『ビッグ』のラストです。
1998年のブラジル映画『セントラル・ステーション』の事も思い出しました。
いずれも親ではない年長者が子供に対して「私はこの子の事を一生忘れないけど、この子はきっとすぐに忘れてしまうんだろうな」っていう何とも切ない気持ち。

そしてジョニーがインタビューする子供たちの言葉!!
ほんとに鋭くて賢くて圧倒されました。
アメリカで生きる子供は自分の意見をめちゃくちゃしっかり持ってるし言葉にする能力も高い、って事はいろんなメディアを通じて知ってはいるけど何が大事なのかって事がほんと分かってる。
もう子供が政治をやればいいんじゃないか?と本気で思う。
絶対戦争なんか起きないと思うし、自然や動物も守られるに違いない。
わたしは正直なところ、子供がそんなに得意ではないし子供見て「かわいいーー!」って歓喜したりできなくていつも申し訳ない…という気持ちでいっぱいになるんですが、そんなわたしでも子供っていう存在は素晴らしいなと素直に思いました。

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