TITANE チタン

幼少期の交通事故によって頭蓋骨にチタンを埋め込まれたアレクシア。
成長した彼女は車に対して性愛を抱くようになる一方で衝動的に次々と殺人を犯してしまう。
2021年度パルムドールを受賞した衝撃作。

「めちゃくちゃ映像が痛い」と聞いていて、偏差値の低いスカッとする100%フィクションじゃんって暴力描写は大好物だけど本格的に伝わってくる痛み(拷問とかの)シーンは苦手なので観るのためらってましたがびびりまくってたせいかそれ程でもなく、話ももっと抽象的で訳わからん感じのを予想してたけど案外ストーリーもあって楽しめました。

まあとにかく主人公アレクシアの個性がすんごい。
手術の痕をあえてなのか隠していないので見た目のインパクトもすんごい。
お仕事は車の展示会でのダンサーなんですが、仕事終わってひとっ風呂浴びた帰りに変なファンの男につきまとわれて「うわ〜〜キモいな!こんな男死んでほしい!」って思ったらほんとにアレクシアが殺しちゃったんで、ああ…フィクションでも安易に「死んでほしい」なんて思うもんじゃねーな…って反省しました。
で、返り血で体が汚れたのでまたシャワーを浴びるアレクシア。
死んだ男には申し訳ないけど一度きれいにしたのにまた汚れるのってほんと面倒くさいですよね。
で、別の日にまた衝動的に人殺しちゃって、こうなったらもうそこに居る奴全員殺さねえと…ってなって殺していくんだけど思ったより人数多くて「何人居るんだよ!!?」ってキレるところ、すごくよかった。
やってる事めちゃくちゃなんだけど「面倒くさいな〜」「しんどいな〜」って感情と疲労に妙に共感してしまう。

そもそもあらすじにある「車に性愛感情を…」って何なんだ??って思ったらそのまんまの意味だったのでこれもびっくりだけど、まあ確かに車って普通にかっこいいし包容力あるし、アレクシアといちゃいちゃしてる時の車はちょっと『カーズ』とかのキャラクターみたいな動きもしてかわいいんですよね。
なので、

「普通じゃない女が衝動的に連続殺人」>ちょっとわかる
「車といちゃいちゃ」>自分じゃやらんけどわかる

…みたいに、普通じゃないシチュエーションなのに変に説得力がありました。

後半は逃走の末たどり着いた先での生活編ですが、前半も十分狂気じみてたのに後半はもっと狂ってる、って幅広さがすごい。
10年前に息子が行方不明になったままという喪失感から抜け出せない老いた消防隊隊長…という新たなアレクシアの保護者・ヴィンセントもまた頭にチタンこそ埋まってないけど十分ぶっ飛んでて、けどそのヤバさが何なのか説明が難しい、なんせクセが強すぎる。
彼が率いる消防隊員たちが出す強すぎるホモソーシャル感や、ヴィンセントを神とあがめる(もしくはヴィンセントがそう仕向けている)感じもいつ凶と出るのか…って緊張感があって怖いし。
けど2人の間には確かに何か絆というか、魂のぶつかり合いと繋がりがあって、人生の縮図を見ているような変な感動があるんですよね。
シリアルキラーものから疑似家族ものに移っていく映画って考えるとすごくおもしろい。

アレクシア役の俳優がしょっちゅう素っ裸だったのがエロいとか通り越して怪我とかしないかな?風邪ひかないかな?って心配でした。
こんなぶっ飛んだ映画なのに女性監督のもとで非常に配慮のされた撮影がされていた事や、これがカンヌ最優秀作品賞を獲った事など、諸々すごいな〜と思いました。
最後は、これをやったらパルムドールは獲れなかったと思うけどちっちゃい車の赤ちゃんを産んでほしかった。

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