ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男

企業弁護士のロブはウェストヴァージニア州の牧場主から大手企業・デュポン社の工業廃棄物によって環境汚染がされているという話を聞く。
初めは半信半疑だったロブだが、調査を進めるうちデュポン社の40年に渡る有害物の廃棄とその隠蔽の事実が明らかになっていく。

デュポン社というとテフロン加工の特許で有名で、日本で暮らす私たちの暮らしにとっても今やテフロン加工以外のフライパンの方が珍しいというぐらい馴染みのある企業ですよね。
そして映画好きにとってはデュポン財団の御曹司でレスリングチームのオーナーでもあったジョン・デュポンによる選手射殺事件を描いた2014年の『フォックスキャッチャー』ですぐに思い出す企業名でもあります。
さらにこの『フォックスキャッチャー』に出演していたマーク・ラファロがまたデュポン絡みの実話ものに出る…という事でなにか運命というか因縁めいたものを感じる、そんな今回の映画です。

この訴訟と「テフロンってやばいのでは?」という認識は確かに2000年代頃にあったなと記憶しています。
けどその後「前は危険だったけど今は改良されたからもう大丈夫!」みたいな認識に変わって、以前あったものはなんとなく都市伝説みたいな感じに風化されて、映画を観た後検索しても正確な記事などはほぼ見つからずクリーンなイメージのデュポンに関するサイトだけがバーンとトップに出て、これもまた怖いな〜〜と思いました。

映画では環境弁護士を名乗りながらもどちらかというと企業側の弁護をしていた主人公ロブ・ビロットが大手も大手のデュポンを訴える…とあっては当然周りの反対は大きく、ああこれは絶対同業者からの妨害とかあるなと思ったんですが意外とみんな熱く、ロブを後押ししてくれる様子が胸熱でした。
それぐらい環境汚染の事実が酷く、到底無視できるものではなかったんですね。
なにせデュポン側はとっくに承知の上で汚染物質を河や海へ垂れ流しまくり、更には自社の社員で人体実験までしていたというんだからこれが闇に埋もれたまま許されていい訳がない!!と誰しもが思うはず。
久しぶりに見たティム・ロビンスがよかったですね。
高身長で有名なティムと並ぶとハルク(ラファロ)も小さく見える…というのは可笑しかった。

アン・ハサウェイ演じる妻の描写も多くないながらも印象的でした。
結婚前はロブと同じ弁護士だった彼女が夫の職場のパーティーで男性弁護士から言われる「専業主婦に転身する女性弁護士は多いから」みたいなセリフとか。
なぜ女性がそうなるのか?の想像力が全くないんだなっていう、本筋に直接は関係ないけど弱い立場側に立つ目線が常にあるのがトッド・ヘインズ監督の映画だなーと思います。

トッド・ヘインズが実話の訴訟ものを監督すると聞いて最初は驚きましたが、そういえば2016年の『キャロル』は地下鉄の床に敷かれた鉄柵のアップから始まるのを思い出しました。
それはつまり誰も気にしない目に留めない埋もれたものにフォーカスを当てるという事で、その精神は市民の側に立って巨大企業相手に訴訟を起こす今回の姿勢と通じるものがあるなと。

実在する、汚染によって生まれつき障害のある人物が本人役で出るシーンがあるんですが、その描写の仕方がなんていうか奇跡を見るようで、これを描ける監督はなかなかいないと思いました。
感動のネタにされたり晒し者にされることもなくただ今もこうして生きて、生活をしていて、共に時間を過ごす人も隣にいる…ってことを普通に、けれど奇跡のように描いてみせたあの瞬間は忘れられません。

ちなみにタイトルにある「ウォーターズ」、最初は液体類は複数形にならないはずなのになぜ?と思いましたがwatersには河や海の意味があるそうです。
なので最初は「水」レベル…例えばその地域だけの水質汚染の話なのかと思っていたら(それだけでも十分酷いけど)更に河や海にまで拡がるような規模の汚染だった、という認識に変わったという段階を踏めたので最初に「waters?」って疑問に思ってよかった!と謎の満足感がありました。

私事ですがこの映画を観た時ちょうどフライパンを買い換えようと思っていて、いつもだったら何も考えずテフロン加工のを買ってたんですがこれを観た後ではもうそんな気持ちは一切なくなってましたね、怖すぎて!!
まあ今まで使っていたらもう手遅れなんですが、もう一銭もデュポンにお金(別社製であってもテフロンの特許料が発生してるはずなので)落としたくないな、ってなりました。
ちょっと高かったですがテフロン加工のないベルギーのメーカーのを買いましたよ。

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