グリーン・カード

お互いの利権のために見ず知らずの相手と偽装結婚した男女を描く、1990年のピーター・ウィアー監督作。

タイトルの「グリーン・カード」とはアメリカの永住権を指します。
偽装結婚する男性の方はまさにこの「グリーン・カード」目当て。
これは偽装結婚では一番多い理由だと思うし、人生も掛かってるので分かります。
で、女性の方はというとと「ある特殊な高級アパートに住みたいがため」というちょっとにわかには分かりかねる理由なんですが、このアパートを見たら納得!!

最上階の彼女の部屋にはなんと本格的な温室があるのです!
ブロンティーは貧しい地域に草木を植えるボランティア活動家で、植物(グリーン)をめちゃくちゃ愛してる女性。
そんな訳でタイトルには二人の希望が合わさった、とても粋な意味合いがあります。

わたしはこの映画を高校生の頃ビデオで観ましたが、同じ頃学校の女性の先生がこの温室付きアパートの話をしていた記憶があります。
たぶん当時の働く女性から見るとこのアパートはめちゃくちゃ憧れだったんじゃないでしょうか。
グリーンの配置ももちろん完璧だし、家具も「市場で見つけてきました」って感じのアンティーク調でしかも最上階!
アメリカのアパートはだいたい玄関を開けるとすぐに部屋、って作りが多いと思いますがこのアパートは玄関を開けてから更に短い階段があり、部屋に通じるドアがある…っていう作りもいいんです。

監督のピーター・ウィアーは人同士の結びつきを大事に見守るような、けどウェットになり過ぎずどこかに風刺だったり粋な遊びなんかを入れるのが上手い、大好きな監督の一人。
この映画では最初はケンカばかりの二人が徐々に相手を知って距離を縮めていく…というラブコメおなじみの流れですが、移民局の試験をパスするためにお互いのパーソナルデータを頭に叩き込まないといけない、っていう設定がとても自然でうまい。
わたしがこの二人のやり取りですごくいいなと思ったのは、ブロンティーに「部屋のために偽装結婚するなんてばかだと思うでしょ?」と聞かれたジョージが
「けどそれは君にとっては大事なことなんだろう?」
って言うところ。
自分には分からないし関係ないけどその人が大事にしてる事ならそれは大事なんだ、っていう一旦自分とは切り離した上での相手への理解。
多様性についての議論がまだまだ続いてる約30年後の現在においてもこの考え方ってほんとに大事だと思います。

けどやっぱり30年前の90年代なので「アメリカでもまだこんな感じだったのか〜〜」って描写ももちろんあります。
なかでも顕著なのがブロンティーのアパートの管理人や受付、隣人などのいわゆる「裕福な白人層」。
「夫はアフリカで仕事をしている」というブロンティーの嘘に対して「まさかアフリカ人ではないですよね?」と聞き返すというような人種差別だったり、いつまでも妻が一人で暮らしている事が気に食わない受付ははっきりと「女性の自立ってやつは嫌いですね」と女性軽視をあらわにする。
この受付はジョージが現れた途端、男性であり夫であるジョージに対してはペコペコしてブロンティーへの態度と全然違うっていう点でも非常に腹立たしいキャラクターです。

同時にこの頃の映画はまだギリギリ景気の良さを感じられるのも羨ましかったり寂しかったりです。
そもそもボランティア活動しかしてないブロンティーがニューヨークの高級マンションに住んでたり悠々自適なんですよね〜。
実家が金持ちの芸術家という親友が普通にいるのもなんかすごい。
もちろんセントラル・パークにもすぐ行けちゃう!
主役と言ってもいいぐらいの存在感あるアパートと、時代を問わないアンディ・マクダウェルのナチュラルファッションも合わせて、まさに憧れのニューヨーク・ライフを満喫できる映画でもあります。

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