ほえる犬は噛まない

2000年のポン・ジュノ長編初監督作。
何かしらの悪を懲らしめて英雄になりたい!と夢見る女の子・ヒョンナムが団地内で連続して起きる犬の失踪を追う。

2000年製作ですが日本公開は2003年でした。
2000年は日本で『シュリ』が公開され「韓国映画がどえらい事になってる!!」と衝撃を受けた年。
その後2001年に『JSA』の骨太な人間ドラマに打ちのめされ、2004年にはいよいよポン・ジュノ監督の最高傑作『殺人の追憶』公開…と、とにかく韓国映画に心揺さぶられまくった2000年代前半。
そんな中で妙にかわいらしく、劇中に登場する雑貨屋に売られている玩具のようにちょこんと存在するのがこの『ほえる犬は噛まない』。

この映画はほぼ団地の中で展開されるんですが、『パラサイト 半地下の家族』でも顕著だった縦方向の場面設計がとても効いてます。
さっきまで逃走劇が繰り広げられていた階のすぐ上では逃げ切った男が何事もなかったように部屋に入る姿がフレームを少し上げただけで描写される。
いっぽう地下では時代が一気に10年20年戻ったような非現実的な世界が広がっている。
屋上ではおばあさんが切り干し大根を作っているかと思えば別の日には男が恐ろしげに「ある料理」を作ろうとしている…というシュール世界が団地という平凡な舞台に展開しているのがユニークです。
当時も言われていましたが団地ものマンガの傑作、大友克洋の『童夢』をぜひポン・ジュノ監督に映画化してほしい!
(ちなみにポン・ジュノが「絵が大友先生ぐらい上手ければ漫画家になりたかった」と話していたのは有名な話。そこまで超絶上手くなくても…って思った)

少し古い映画を見直して興味深いと最近思うのはやっぱりジェンダー描写。特に韓国は日本以上の家父長制に長年苦しめられた女性たちが声を上げ、今も戦い続けている現実があるので興味深いです。
そういう変化も映画には刻まれている。
今この2000年製作の映画を観ると、男性ばかりの飲み会で数少ない女性がビールを注いでいたりするのが今の映像作品ではありえない描写です。
(もちろん当時はそれが当たり前だったので「この映画は差別的だ!」という意味ではありません)
妊娠を理由に安い退職金でリストラされた女性も登場します。
いつもちょうどいい物差しになるのはベストセラーとなった小説『82年生まれ、キム・ジヨン』でしょう。
わたしもこの本は2回読んだので、2000年だからジヨンは18歳か…と思うとその頃の韓国社会がどれぐらいの意識を持っていた時代なのかがなんとなく測れます。

またちょうどこの映画を観返し、イラストを描いた数日後に韓国での犬食禁止法案化の声が挙がっている、というニュースを見ました。
とてもタイムリーでびっくりした!

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