ニューヨーク 最高の訳あり物件

2017年のドイツ映画。
元モデルで現ファッションデザイナーのジェイドは40歳になった途端、夫のニックから離婚を言い渡される。
悲しみに暮れる暇もなくニックの前妻・マリアがドイツから押しかけてきて同居生活が始まる。
ニューヨークが舞台のドイツ映画というのも興味深い、ドイツ目線のニューヨークとアメリカの描写が独特です。

この映画、日本初公開は東京国際映画祭だったんですがその際は『さようなら、ニック』という原題(『Forget About Nick』)ママのタイトルだったみたい。
たぶん劇場公開時になって配給会社の人が「部屋を売るための内覧会のシーンもあるし『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』に似てない?」って気づいて「ニューヨーク物件シリーズとして宣伝しようぜ!」という事になったんじゃないでしょうか?(あくまで想像ですが)
人間、他人がどんな部屋に住んでるのかは興味津々なので確かに『〜眺めのいい部屋売ります』では主人公夫婦が売りに出す素敵なアパートを見るだけでも楽しかった。
ので、今作でもこの日本語タイトルに吊られておしゃれなニューヨークのマンションを楽しみにしていた人もいたと思うんですが、そんなに良い部屋ではないんですよね。
高級なんだろうけどなんていうか…落ち着かない!エレベーター開いたらすぐ部屋なのもすごいし、細い鉄骨だけの吹き抜けの階段とかSF映画に出てくる何かの研究所?ってわたしは思ったんだけど単に趣味の問題かな?
冬は絶対寒いと思う。

自身のキャリアアップの事しか考えていないジェイドと、育児に専念して教師のキャリアが断たれたマリアが描かれますが、どっちが幸せでどっちが悪いっていう映画ではなくて「仕事の定義とは?」みたいな問いも描かれる。
アメリカだと賃金が発生しない活動は仕事と見なされないけどドイツだったら事情が違ってくる…みたいな。
ニューヨークに来たマリアの娘とジェイドが一時仲良くなって一緒に仕事するんだけど、ジェイドは最初から最後まで彼女を「利益を生んでくれる存在」としか見ていない。
最後は「お金第一のアメリカで息子を育てたくない」と言われ、去られてしまうところははっとさせられます。

見どころの1つはマリアがふるまう料理。
料理ってやっぱり映画を明るくしてくれるしコミュニケーションツールとして優れてる。
ジェイドは略奪婚だったのでマリアとはめちゃくちゃ気まずいしマリアには怒りが当然ある。
けどだからって自分の食事を作る際にジェイドの分は作らない、とはならない。
逆にニックの悪口言って二人が心通わせる訳でもない。
1足す1は2じゃないみたいな描写が散りばめられてて、こうなるかな?と予想してもそうならない…って繰り返しが複雑で深い、けど笑えるところもいっぱいある成熟した映画でした。

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